しなやかなこころで、

臨床心理士Hecoのひとりごと

薬物依存症って?~基本編~

みなさん、お疲れさまです!

 

最近暖かくなってきたと思って油断していましたが、今朝は道路がカチカチに凍っていました…まだまだ気は抜けないですね(^_^;)

 

さて、今日から何回かに分けて【薬物依存症】についてお話ししたいと思います。

 

薬物依存症と聞くと、みなさんはどんなイメージが浮かびますか?

 

おそらく、「だらしがない」「自己抑制が効かない」「ダメ人間」など、かなりネガティブなイメージだと思います。

 

また、【治療】という観点よりも、【処罰】という観点で語られがちだと思います。

 

依存症はれっきとした病気です。なので、正しく【治療】する必要があり、よい【治療】を受けることができれば、回復することができます。

 

ちなみに、【処罰】は治療的観点からするとほとんど効果がないようです。

 

何か月、何年と刑務所に入れておけば、依存が消えうせるというものではありません。

 

他の精神疾患同様、日本における依存症のイメージはやはり偏見や間違った知識が蔓延していると感じます。

 

なので、今回はできるだけわかりやすく依存症ってどんな病気なのかをご紹介したいと思います。

 

 

依存症は『こころの病気』

 

まず、冒頭でも述べましたが、依存症とは、何らかの原因で精神のバランスを崩した結果、なってしまう『こころの病気』です。

 

本来は誰もがかかりうるものです。ですが、『病気としての依存症』に関しては社会的認知の度合いが非常に低く、依存症によって起こったさまざまな問題は、病気という視点よりも、本人の倫理観の低さや意志の弱さが原因であると思われがちです。

 

この話は、アルコール依存が原因で引き起こされているDVや、違法薬物の所持使用など、それらそのものを許容、容認しようという事ではありません。

 

それらが依存症という病気から起こっているという見方をするならば、ただそれを非難したり、処罰すれば問題が解決するわけではない、ということが言いたいのです。

 

NPO法人アスク*1によると、依存症とは、

何かの習慣的な行動が、自分の生活や人生にダメージを与えているのに、意志の力ではそれがやめられない状態のこと

 だそうです。

 

要するに、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲーム、インターネットなどが自分にとって良くないものとわかっているのに、やめたくてもやめられない状態のことですね。

 

自分の意思に反しての行動に対して罰を与えて、『二度とするなよ』など言ったところで無意味です。それに対しての答えは当然「やめられるならやめているわ…」だと思います。

 

薬物依存を本当に減らしたいのであれば、薬物依存を正しく捉え、「どう対処したら薬物依存は減るのか」ということを合理的に考える必要があると思います。

 

身体依存と精神依存

 

依存には2つの種類があります。

 

ひとつが身体依存です。

 

身体依存とは、その薬物の摂取量が減少したり、摂取できなくなった時に、退薬症状(離脱症状、禁断症状)を呈する状態のことです。

 

薬物の種類、あるいはその個人によって症状は様々で、けいれん、眩暈、頭痛、しびれ、食欲不振、落ち着かなくなる、イライラする、不安、集中力の低下などが例として挙げられます。

 

薬物依存症において重大なのは精神依存です。

 

精神依存は、薬物を摂取したいという強い欲求(渇望)と同時に、その薬物を手に入れるための薬物探索行動を誘発する状態です。

 

タバコに含まれるニコチンには身体依存性はほとんどないにもかかわらず、喫煙者はタバコが切れるとそわそわし、吸いたいという強い欲求とともに、買いに行ったり、近くにいる人に譲ってもらったりします。これは、精神依存の状態と言えます。

 

精神依存の実態を表した言葉に「脳がハイジャックされた状態」というものがあります。

 

これは、薬物を自分がコントロールしているつもりが、実は逆に薬物にコントロールされてしまっている状態を表した言葉です。

 

例えば、薬物を一か月頑張ってやめていた人が、なにかのきっかけ(疲労感、飲酒、テレビで薬物のことが流れたなど)で、「これだけ我慢したんだからもう一回くらい」「これが本当に最後」「たまにならいいよね」など、薬物使用を合理化する思考になってしまうことを指します。

 

このような思考が一度生まれてしまうと、薬物への衝動を抑えることができなくなり、結局使ってしまうのです。

 

孤立の病

 

薬物依存症は「抑制ができないから」「快楽に負ける人」「ダメな人間」というような認識ではなく、『病気』なんだと述べてきました。

 

では、どんな病気なのでしょうか。

 

有名なのがこの孤立の病です。

 

社会的に居場所がないと感じていた人、劣等感が強い人、緊張感や不安感が強く、上手く人づきあいが出来なかった人が、薬物を使うことよって、人とのつながりが得られ、社会における関係性を獲得できるというメリットがその人を薬物乱用、依存に引き込むのです。

 

例えば、学校での勉強について行けなくなり、同級生と何を話していいかわからなくなり、不登校気味になり、かつ家には常に誰もいないという状況において、少し年上のかっこいいお兄さんに薬物を勧められたら、断れるでしょうか。

 

『薬物はいけない』とどこかで聞いたことはあっても、それを使用することで、その人たちからは認められ、仲間扱いされるだろうという期待・魅力には勝てないでしょう。

 

現実の社会生活に孤独感を感じている人ほど依存症になりやすいという意味で、孤立の病と呼ばれているのです。

 

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このことに関して、国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部部長の松本俊彦先生は、

孤立している人が、人とのつながりを求めた結果、かえって孤立を深めてしまうという、実に皮肉な病気

と述べています。

 

他にも嘘つきにする病気、忘れやすい病気、家族の病気など色々な呼ばれ方をされていますが、長くなるので割愛します。興味のある方は調べてみてください。

 

次回は実際にどんな問題が起こるのかということと、治療について書きたいと思います!

 

 

 

 

 

*1:依存症支援を専門とする特定非営利活動法人